2014年09月12日

黒い家/貴志 祐介

黒い家 (角川ホラー文庫)黒い家 (角川ホラー文庫)
貴志 祐介

角川書店 1998-12
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人の心の闇は黒より昏い

保険会社の主任社員の若槻(わかつき)は、ある日菰田(こもだ)という客に呼ばれて菰田家に行くと、そこは異臭が漂っていた。家長の重徳(しげのり)が義理の息子の和也(かずや)のことを若槻に「そこの部屋にいるから呼んでくれ」と言われたので部屋に入ると、そこにあったのは――首を吊った小学生の少年の死体だった。あまりにも和也の保険金の支払いを強請ってくる菰田夫妻に対して、若槻はこれを保険金目当ての殺人事件だと確信するが警察も決め手に欠けているので逮捕出来ない。そのために保険金の支払いを渋る会社の方針によって毎日窓口にやってくる重徳だが、若槻に対してどんどんエスカレートして行く、ストーカーじみた行為の数々……。人は、金のためにどこまで残酷になれるのか。第4回日本ホラー小説大賞・大賞受賞作!


 Amazonレビューでは「読んだ直後の晩は一人で眠るのが怖かった」などと、かなりの高評価だったので期待値は大だったのですが……なるほどなるほど。こう来たか。
この前紹介した甲田学人先生の「断章のグリム」グロテスク系でしたが、さすがにホラー大賞を受賞したこっちの方が「えぐい」というか、怖いですね。つか、こっちはパニックホラー系と言っても過言ではないかと思います。まあ、あっちは少年向けの電撃文庫からの刊行で、こっちはホラーに特化した角川ホラー文庫からの刊行ですからね。やっぱり全体の怖さでは甲田先生の方がちょっと負けますが、それでも少年向け文庫から出せるぎりぎりの範囲の描写だったかな、と思います。一般向けを意識して書いたら甲田先生も貴志先生にそれほど負けてはいないかと。
 ちなみにコレの折り返しの著者紹介では「京都大学卒業後、保険会社に就職。退職して、第3回日本ホラー小説大賞・佳作を受賞し、翌年の第4回で本作にて大賞を〜」と書いていましたので、「そういう経歴なら、こんなに若槻の会社事情やら隠語やらの詳しい描写書けるわ!ww」と突っ込みましたよw
 つか、なんで第3回のホラー小説大賞で佳作もらっておきながら、第4回にも出してしかも大賞受賞なの? こういうのって賞金が懸かってるから、一度受賞して刊行した作家(プロ)はもう除外するのがほとんどだと思うのですが? でないと、アマチュアの作家志望者が「プロも応募するなら敵わないからやめておこう……」ってなりませんかね?

 ネタバレあらすじー。今回はちょっと細かいところは飛ばして、要点だけ書きます。でないと……約400Pもあるから長いんですよ(笑)。
 若槻、4月のある日に名乗らない女性から「あのぅ……自殺の場合でも保険金って支払われますか?」と電話で相談されたので、「(この女性、自殺するつもりか!?)一応支払われますが……お客さま、人の命は何事にも代えがたいものです、と差し出がましくも申し上げさせてください」と忠告する。→その後で菰田家に呼ばれて若槻が和也の首吊り死体の第一発見者に。だがその時に重徳が和也の心配ではなく、若槻の反応を見ているようだったので、若槻は警察に「あれは自殺ではなくて殺人ですよ!」と言う。それを会社の上にも話したので、なかなか和也の死亡保険金が下りず、心が病んだっぽい重徳が毎日窓口に通ってきて若槻を指名するので若槻も疲弊する。そこ辺りから、若槻の家に無言電話が何度も掛かってきたり、若槻宛てに送られた手紙が一度開封されて、また封をされていることを知る。重徳の病み具合をヤバいと思った若槻は、和也の実の母親の幸子(さちこ)に匿名で「あなたの夫はもしかしたら、保険金目当てにあなたを殺すかもしれません〜」という内容の手紙を出す。するとその後、若槻の恋人の黒沢恵(くろさわ めぐみ)から「うちで飼ってる猫たちが、仔猫もみんな首を切られて殺されちゃったの!」という電話が掛かってきて、なんとそれらの猫の首たちは黒いビニール袋に詰められて若槻のアパートの玄関前に置かれていた。若槻はそれでも誰もに相談しないまま我慢するが、警察が和也のことを「自殺」と断定したことで、保険会社の上の判断も「もう菰田に保険金を支払おう」ということに。ちなみに500万円。→その後、重徳のことで相談するために精神分析専攻の恵経由で教授の醍醐(だいご)と一緒に知り合った金石(かないし)という教授補佐の男性がやけに菰田家のことを興味を持って気にしていたと思ったら――金石が拷問されて殺されて死体を川辺に捨てられたことを、金石が若槻の名刺を持っていたので警察から連絡が来る。確実に重徳の仕業だと思った若槻は自分で調べるが、実は重徳と幸子が同じ小学校の出身で、幸子の前の子供が死んでいてそれで保険金を受け取っていて、容疑者と思われて捜査されていた子供の実の父親が行方不明になっていることを知る。それで若槻はその小学校に出向いて5年生の時点の作文集を学校から借りる。そこでは小学校時代に飼育小屋の家畜たちが首を吊られて殺されていたり、重徳と幸子と同じクラスの女子が遠足の時に消えて後から池に落ちて溺死していたことも知る。醍醐教授にその文集を見せると、「重徳の方は、知能の遅れた子供らしい文章ね。でも幸子の方は……ユングの愛弟子が分析した、『心を持っていない大量殺人者』の書いた文章と全く同じなのよ」と分析される。それでやっと若槻は、「もしかしたら自分は勘違いをしていて……重徳は操り人形で、幸子が真犯人なのか!?」と気付く。それに最初の方で、「自殺でも保険金って支払われますか?」と電話してきたのは幸子の声だったと繋がった。幸子は自分の命ではなく……実の息子の和也の命を使うことを考えていて、若槻は結果的に幸子のこの計画の後押しをしてしまったのだ。しかしもう遅く……次は重徳が工場で他に誰も働いていない深夜の仕事中に裁断機で両腕を切断してしまったので、幸子が高度の障害保険金を請求してくる。だが若槻が「なんで重徳が両腕を切断した直後に幸子が仕事場にいて救急車を呼んだのか」「腕は機械で綺麗に切れていたので、医者も言っていたがすぐに手術でくっ付ければ治ったはずなのに、その腕が救急隊や警察が来て探しても見つからなかったのは何故か」「何時間も経った後、幸子が切断された重徳の両腕を汚い段ボール箱に氷で冷やしたりもせずに持ってきたのはどうしてか」……と、おかしな点をいろいろ指摘すると、幸子は形相を変えて若槻に攻撃的になった。なので保険会社の方もお抱えの腕利きトラブル解決屋である元ヤクザの三善(みよし)を菰田家に使うことに。若槻はそれで全てが終わる、と思っていたが……ある日の夜、コンビニにいろいろ買いに行こうと思って家を空けると、帰ってきたところになんと幸子が何故か若槻のアパートの鍵を持って部屋に入って行った。なので急いでその場を離れて公衆電話から自宅に電話を掛けて、留守電に切り替わると電話口からうっすらとアパート内にいる幸子が「あのガキ……なんでおらんねん」「はよ帰ってこいや……」「なますにしたるわ……」などと喋っていて、部屋を荒らす音が聞こえる。若槻は幸子が出て行くまでアパートの入り口が見えるところで隠れて見張っていた。幸子が出て行ったので部屋に戻ると、恵と一緒に撮った写真立ても破壊されていることで「もしかしたら恵が危ない!」と思った若槻が恵に電話で連絡すると、留守電だった。なので警察に幸子に恵が誘拐されたかもしれないということを連絡して、自分もバイクで和也の死体を見つけた時に一度だけ行った菰田家――『黒い外壁の家』に向かう。幸子は自転車だったので到着はもちろん若槻の方が早かったが、玄関のガラスを割って不法侵入。やはり家の中は異臭が漂っていて、探って行くと風呂場の方から血の香りがすることに気付く。焦った若槻が急いで向かうが、そこにあったのはなぶり殺された三善の死体。だが風呂場のバスタブの蓋を開けると、そこに縛られた恵が一応無事な姿でいた。恵の拘束をほどいているうちに幸子が帰ってきたので、二人で隠れるが、恵の息遣いを気付かれて鉈のような鱧引き包丁を持った幸子が迫ってくるところに、警察のサイレンとパトカーの赤い光が来たので幸子は逃げる。それで重徳は病院の二階から飛び降りて、その後は精神病院に行くことに。幸子は指名手配に。→恵は心を癒すために実家に帰ったりしたが、ようやく若槻に平穏が訪れた……と思ったら、『カッコよく働く女!』としてテレビや雑誌などにも出ている外務社員の女性――高倉(たかくら)から残業をしている若槻に電話が掛かってきて、「若槻さん、ちょっとお話があるから会社で待っていてね。絶対よ。設楽(しだら)さんのことなの。そう、設楽さんのこと」と言われたので残業をしつつ待っていたら、今日の昼間に社員が「講習に来ている一般のお客さんのお弁当が一つ足りないんだけど」と言っていたのを思い出し、「高倉さんが繰り返していた『設楽』という苗字はそう多くない……というか、うちの課長の名前じゃないか! 今日の弁当が足りなかったことといい、もしかして……幸子はまだ京都にいて、自分を狙っている!? 高倉さんは幸子に脅されたりして俺を足止めする手段を獲らされたが、それを暗に知らせようとしてうちの課長の名前を繰り返したのか!?」と気付いた時にはもう遅かった。逃げようとして8階の現在地から非常口に出て下に降りようとしたが、途中の4階付近で会社の守衛が首を切られて殺されていた。なので若槻はまた上に戻ったりしてエレベーターで下まで降りようとしたが、そこには幸子がエレベーターの時間差の罠を引っ掛けていて、若槻を待ち構えていた。揉み合いの末に、非常階段で若槻は幸子を落として殺してしまう。もちろん、正当防衛。ちなみに高倉さんも公園で幸子に殺されていた。→これまでにたくさんの人たちが幸子によって殺されたが、やっと安心出来た……と思っていたら、先日の『放火で家が全焼して二人が死亡』という事件での「保険に回すほどの金の余裕が無いはずの被害者たちはつい先月、我が社の最高ランクの手厚い死亡保険に入ったばかりなので怪しい」と会社が保険金の支払いを渋っていることで、受取人である強面の大男が文句を言いにやってきた。自分はまだまだこの世界での人の持つ闇の中に片足を入れたばかりなのかもしれない……と、若槻は身を震わせたのだった。

 要点だけを掻い摘むつもりが、結構長くなってしまいましたね……。まあそれだけこの作品の密度が高いということでしょうか。
 この本が出版されたのは1997年ですから、ストーカーに対しても警察があまり真剣でなかった時ですよね。なのでいまこれを書こうと思ったら、かなり展開や設定を変えなきゃいけないから、ここまでの怖さは出せなかっただろうなあ。でも幸子が若槻のアパートに入って行った時は普通に不法侵入なので、若槻が「泥棒が入った!」とでも警察にさっさと連絡していれば、その後で恵の心配もすることなく幸子は捕まったんじゃないの? その辺がどうもご都合主義ですね。
 それともう少し突っ込みたいのですが……犬ならともかく、猫って基本的には家の中で飼いますよね? なら幸子(重徳の仕業かもしれませんが)はどうやって恵の家にまで入ったの? 確かに後半で幸子はどこからか若槻のアパートの鍵を入手して(手段が言及されていないので、ここもちょっと気になるところですね)いますが……。恵の家にはどうやって入って猫を殺したの? それに猫殺しでも犯人は大体わかっているんだから一応警察に届けていたら、ビニール袋とかにもし指紋が付いていたりして、幸子(か重徳)は捕まったんじゃないの?
 ついでに醍醐教授が「殺人鬼に多いと言われているのだけど、頭蓋骨が変形していて知能が遅れていることもあるらしいわ」と言っていて、なお且つ警察が「菰田重徳には水頭症のように頭蓋骨に変形した部分がある」と言っていたのに……結局重徳は幸子に言われたことだけをこなしているだけで、『真犯人である大量殺人鬼は幸子』というのはちょっとなあ……。読者にミスリードを引き寄せるためのものでしょうけど、その辺りが上手くなかったと思います。

 うーん、星4つ★★★★☆かな。オススメではあるのですが……出版当時ならともかく、いま読むとちょっと気になってしまうところもあると思います。

posted by mukudori at 18:46 | Comment(2) | TrackBack(0) | 一般小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月20日

植物図鑑/有川 浩

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有川 浩

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きみはペット

「お嬢さん、俺を拾ってくれませんか」――普通の社会人をしているさやかのアパートの前で倒れ込んでいた青年、イツキ。彼はやけに野草に詳しい、『植物男』だった。そんなイツキと一緒にフキノトウを摘んだり、野イチゴを食べたり過ごす日々。本屋大賞にノミネートされた有川浩の一作!


 ……まんま、「きみはペット」じゃねーか!!
会社で孤立しがちなOLがイケメン男を拾うところから、だんだんとその男に癒されて行く日々。そして男の意外な出自による別れ――。
ですが、「パクリですか?」
……と訊かれたら、「いいえ」と答えます。
何故なら、「きみはペット」の方が断然恋愛ものとして出来がいいからです
 この話は、男女がだんだんとくっついて行く……というストーリーなのに、二人は常に野草狩りに夢中で、時々思い出したように「あっ、イツキ……バイト先の女の子にハンカチもらってる!」「誤解だよ、さやか。さやかが気になるんならもうしない」「それならいいよ」……とまあ、取って付けたような恋愛描写が挟まれるだけで、物足りない。
なんというか、ラノベでいう「萌え」が足りないんですよね。
お前ら、自転車乗って野草摘んでるだけで愛が育まれたんかい
 あと、さやかが二十五歳の女子にしては「ノビルを掘るのは、苦心惨憺(くしんさんたん)だった」とか、言葉使いが古すぎる。ついでに「料(りょう)る」(※意味:料理をすること)はちょっとふりがなを振ってないと一般の読者にはわからないんじゃないかな……。つーか、イツキの歳でそんな言葉使うやついねーよ。
 ついでに、さやかへの読者(私)の好感度とシンパシー度合が低すぎる。イツキの手作り弁当に他人が、「美味しそうだね。ちょっとちょうだい」と手を出したぐらいで、「気持ち悪い。もう食べる気にならなくなった」と言って、家に帰って「ごめん、イツキ。今日は仕事が忙しくて食事の時間が無かったの。悪いけどお弁当捨てるね」というのは……正直、「お前、汚い道端で倒れ込んでいた浮浪者(イツキ。※ただしイケメン)を拾っておいて同棲までしてるのに、他のフツメン(しかも同僚)にその対応はどうよ……。顔さえ良ければいいのか? ああん?」と思いましたね。

 ネタバレあらすじー。今回、少ないです。
 さやか、倒れているイツキを拾う。イツキが料理が上手いのを知って、家事を任せることにして同棲。だが、男女の関係には至っていない。→二人は休みの度に自転車で遠出して、野草摘みの日々。それなりに幸せ。でもある日、上司にもらった有名華道家の生花展のチケットでデートに誘うとめっちゃ拒否される(真実は……有名華道家が「家を継がない!」と家出してきたイツキの父親だから)。→そんな日々で一年が経とうとしていたら、イツキは何も言わず出奔。さやかは戸惑うが、信じて待つ。→一年後、実家とも蹴りを付けて、近郊の大学の植物学の教授の助手として就職してきたイツキが再び顔を見せる。さやかは「今年の誕生日は祝ってもらってなかった分、ワガママ聞いてね!」「何がいい?」「イツキとずっと一緒に暮らして行きたいの!」……と告げたのだった。

 ともかく、作者が後書きで書いているように「『旅をする女子』というテーマだったんですけど、この執筆のためにいろいろ野草を調べていたら面白くて!」……という方向にめちゃくちゃ脱線してしまった感が否めないです。
そんなに野草とそれを使った料理が好きなら、レシピ本でも出してください。文章はレシピの合間に付いてくる野草を擬人化したショートストーリー的なオマケ扱いでいいんじゃないでしょうか。

 まあ、面白くは無かったけど、読めることは読めたので……星2つ★★☆☆☆。プチ地雷です。
posted by mukudori at 18:09 | Comment(0) | TrackBack(0) | 一般小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月14日

インシテミル/米澤 穂信

インシテミル (文春文庫)インシテミル (文春文庫)
米澤 穂信

文藝春秋 2010-06-10
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 今年映画化もしたインシテミル! 
時給11万2000円のお仕事……あなたなら応募しますか? それとも鼻で笑い飛ばしますか?
私なら応募しますね。1本分、必要ですから……。

 なかなか読ませる小説でした。ちなみに今回、ネタバレ満載で行きます。
みなさん覚悟はいいですかー?




 一応ワンクッション置いて、なおかつ詳細はドラッグ反転しておきます。
 ……まず西野を殺したのは「西野はガードに逆らったための自殺」で、最終的な他のことをやった犯人は「関水」です。

 この小説、約500ページあるんですが、最初の100ページくらいは物語の導入・設定説明部分なのでぶっちゃけ面白くないです。
あと、登場人物が12人も居ますが、ごろごろ死んで行くのであんまり覚えなくていいです。重要人物以外は特にキャラ付けも薄いし

 ですが最初の殺人が起きてから物語は動き始めます。
そこからが面白い! あっという間に500ページ読み終えてしまいました。特に終盤ですが、結城が岩井と同じ監獄に入れられてからの会話が面白い! そこに繋がるまでの伏線がもっとあったら良かったんですけどね。
登場人物が静かに線でつながっているというのなら、全員の関係性を全て明らかにして欲しかったですね。
あと、物語のあらすじ的に「人狼ゲーム」と似ているのかと思いきや違いました。これは嬉しい誤算です。

ここから詳細に触れて行くので反転とします。↓
 でもなんだろうなー。この作者、物語作りは上手いんだけど、キャラクター作りがあまり上手でないんですよね。
 特に関水が10億円を必要としていた理由についてはあんな1ページそこらのエピローグだけでなくてもっと深く掘り下げて説明して欲しかったです。お前10億もナニに使うんだよ! それがなきゃ「何人も死んじゃう」ってなんだよ! エピローグで「ナイフ一本だけ持ち出して家を出た」……ってそれだけかい! もっと説明しろ、と言いたくなります。

 それと死人役を受け入れた西野についてももっと記述が欲しかったですね。エピローグで死者の手紙としてでもいいから読んで欲しかったなー。彼をそこまで死に追い立てたものはなんだったのか。やっぱり単なる自殺志願者?

 そして須和名のキャラ設定の怪しさ爆発! 最初からこいつは怪しいとは思ってましたが、まさか犯人ではなくて黒幕とは……。そういう意味では期待を裏切られましたね。でも「1本」のあたりで、なんとなくピンとはきてたんですよね。真相に近い人間かなーとは。

 それとこの話、女性ならすぐに犯人が分かってしまうかもしれません。ちなみに本を貸した伯母は関水が「ニコチン」を捨てたあたりで分かった、と言ってましたし。女性の化粧品の類の観察力はすごい、と素直に言わざるを得ません。


 最後のエピローグでいかにも次作を臭わせるものがあるのですが……これは続編を期待してもいいんですか? 米澤先生?
 それか関水のこの物語の前後のスピンオフ作品が私はとても読みたいです、先生。一つ、お願いします。

 最後に印象に残った言葉を一つ。
「そうです。空気。雰囲気です。先輩以外の参加者は人形を見ても、カードキーの裏の<十戒>を見ても<霊安室>の存在を知っても、なんだか悪趣味な冗談だなという程度にしか受け止めていませんでした。はっきり言って、初日の段階で具体的な棄権を感じていたのは先輩だけでしたよね。あとはまあ、多少怖がっていても切迫というほどのもんじゃありませんでした。……内心はどうだったか知りませんでしたけどね」
 
 みなさんぜひこの本を読んで、そしてまた機会がありましたらこのレビューを読み返して鼻で笑ってやって下さい(笑)
 面白いので読んで損はない本ですよ!

posted by mukudori at 00:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 一般小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月27日

博士の愛した数式/小川 洋子

博士の愛した数式 (新潮文庫)博士の愛した数式 (新潮文庫)
小川 洋子

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 私はこの本を墓場まで持っていくでしょう――。

「ぼくの記憶は80分しかもたない」
 家政婦の仕事をしている主人公「わたし」。次の派遣先は、未亡人とその義兄のいる家。未亡人はその義兄の面倒を見て欲しいと言ってくる。しかし、その義兄――博士は数学の天才で、なおかつ記憶が80分しかもたないというのだった――。

 この本に出会うまで、私はこんなにも悲しくて暖かい愛の物語を知りませんでした。

 何故こんなに話に入り込めるのかというと、おそらく……この話では、主人公である「わたし」とその息子「ルート」の情報が圧倒的に少ないのが関係しているかと思われます。
「わたし」は家政婦の仕事をしていて小学生の息子がいるということだけ。「ルート」は10歳で野球好きでタイガースファンということだけ。どちらも本名は出てきません。それが、この物語に静かに、薄くスパイスを与えているのです。

「江夏には会えるかね」
「残念なんだけど、江夏はおととい甲子園の巨人戦に先発したから、今日の試合にはベンチ入りしてないんだ。ごめんね」
「君が謝る必要などないさ。うん、確かに残念ではあるな。で、江夏は勝ったのかな」
「勝ったよ。今シーズン七勝めだ」


 80分しか記憶のもたない博士を取り巻く、優しい人々の環境。博士のために小さな嘘を吐くルート。ルートを本当の孫のように溺愛する博士。博士のために、一人離れた遠くからその光景を見守る博士の義妹。
 そして最後に、博士へのプレゼントとして江夏のグローブカードを手に入れるために奮闘するわたしとルート。カードが手に入ったのはきっと、手に入るべくして手に入ったのだとしか言いようがありません。
 最後の11章はもう涙なしでは見られません。きっとあなたに爽やかな、そして愛おしくて切ない涙を流させてくれることでしょう。
 私のバイブルと言ってもいい、「博士の愛した数式」の紹介でした。


posted by mukudori at 18:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | 一般小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする