![]() | ニーナとうさぎと魔法の戦車 (集英社スーパーダッシュ文庫) 兎月 竜之介 BUNBUN 集英社 2010-09-25 売り上げランキング : 115130 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
魔法の戦車は、首なし戦車
戦争孤児のニーナは食べ物を盗みに結婚式会場へとやってきた。運悪くそこで見つかり――殺されるかと思ったら、なんと女ばかりの戦車隊の隊舎に連れて来られた!? そこでは風呂に新しい服に食事が与えられ――そしてニーナは女隊長にこう紹介された「みんな、新しい砲撃手が見つかったぞ!」――と。第9回SD新人賞「大賞」受賞作!
この作品は一言でいうなら、荒削りの一言ですね。
文章的には、これなら「二年四組交換日記」の方が上ですね。
まず、3人称視点なのに思考がいきなり飛び飛びで読みづらい。例を挙げますと、
(ニーナの視点)「ラビッツが出動している間、サクラさんはすごく暇そうだな。そんなことを思い浮かべているときだった。」
(誰かの声)「伏せ――」
(誰かの視点)「危険を察知したドロシー。」(ここでやっと↑の台詞がドロシーだとわかる)
(けれどすぐに入れ替わって神の視点)「だが、それでも遅すぎる。先頭を走る重戦車ばりの小隊が、突如として大爆発を起こして吹き飛んだ。」
……という風に。
だがキャラクターが上手い。
主人公だけれども活発ではなく後ろ暗い過去がある所為でむしろ最初はネガティブ思考なニーナ、豪胆なドロシー、高慢ちきな貴族のエルザ、寡黙な実行者キキ、いつも眠たがりのクー。
テンプレと言えばテンプレなんでしょうけど、作者がこの5人に上手く役割を与えて好感が持てるように動かしているんですよね。
あと上手いのは……というより題材的に上手くなくてはいけないのは戦闘描写。
ですが、私にはこれが少々ぎこちなく感じてしまいました。例えば、
「移動要塞から高らかに放たれるマドガルドの声。」「途端、火山が噴火するかのように山の斜面が爆発を起こす。だが、長距離砲が爆発を起こしたわけではない。」
ここも、「移動要塞から高らかに放たれるマドガルドの声。」「ドガァァンッ!!」「途端、火山が噴火するかのように〜」と言う風に、間に擬音語を入れればいいものの、作者の癖か極力擬音語を入れないんですよね。そこが私が「荒削り」と表現した理由です。文章はまだこなれてないんだから、もっと擬音語・擬態語に頼ってもいいと思います。
それとそれと……「女ばかりの戦車隊」ということで期待した方も多いのではないでしょうか?(笑)
百合描写も匂わせる程度にはあります。一緒にお風呂に入ったり、他の隊のオネーサマな双子がニーナを誘ったり。
でも私が一番百合してるなと思ったのは、最終決戦のエルザとクーの仲の良さですね。
「クー、頑張って!」
「エルザ、レバーを……」
「あんなのは飾りじゃない。私はね、クーの手が握りたいの! あなたを励ましたいの!」
「……そういう情熱的な言葉、好き」
「二人はお互いの手を強く握り合った。」
どうですか、諸兄の方々。この仲良しさは。
台詞回しも、展開もごく普通でそこまで上手くないんですが、一点褒めたいところがあります。
この作品、原題は「うさパン! 私立戦車小隊/首なしラビッツ」というんですが、ポップに恐ろしげですね。特に「首なし」というあたりが。みなさんもそう思われたんじゃありませんか? でも私は変えずにこのままで良かったと思います。
何故なら――
「私たちには人を殺す機会が何度もあったも、けれど、私たちは首なしラビッツの名に懸けて絶対に人間を殺したりはしなかった!」
「首なし……『奪った首が一つもない』……」
「大正解だよ、ニーナ!」
という大どんでん返し! これには驚かされました。ここが大賞として評価されたあたりだと思います。だからこそ変えて欲しくなかったなー。続刊も出たみたいだし、最初から続刊を視野に入れての命名だったんでしょうか?
ともかく言葉で説明出来ないのがもどかしいくらい、「荒削り」な小説でした。まあそこは作者もだんだん、こなれてくるでしょう。荒削りにちなんで、あなたも平行世界のニーナに好物の「粗挽き」ソーセージでも送ってあげてください。
星……4つに近い3つ★★★☆☆です。



